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筋スパズムとは

このページでは当院が独自に調べてきた筋スパズムの特徴や性質についてご説明いたします。

注 なお、本HPに記述されている内容の著作権はすべて当院に帰属します。引用はご自由ですが、引用元を必ず明記していただきます。 

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  痛みとは何か


   ① 痛みの役割 

痛みという感覚は人の体にとって、どのような役割を担っているのでしょうか。

体のどこかが痛いとき、人はどこかに怪我をしたのではないかとか、風邪や食中毒などの病気にかかったのではないか、などと考えます。それは痛みという感覚が、自分の体に危険をもたらすものだとわかっているからです。

痛みがあるからこそ、人は自分の体が傷ついていることを知り、その傷に対して適切な処置をとることができます。つまり痛みは人の体に何らかの異変があることを知らせる役割を担っているのです。

ところが人の体には、「痛み以外にさしたる異変のない疾患」というものが存在します。
 
A 腰痛や肩こりなどの慢性痛
 
B 野球肘やシンスプリントなどのスポーツ障害
 
C オスグット病やケーラー病などの成長痛
 
D 骨折や捻挫が治ったあとにも残る痛みやツッパリなどの治りきらない怪我

    
これらの疾患は、怪我もなく、感染症もなく、ただ患部が炎症を起こして痛みが出る、という症状の疾患です。痛みの役割が体の異変を知らせることであるならば、これらの疾患において、痛みはどのような異変を知らせようとしているのでしょうか。

 ② 見えない異変 
 

前述の4つの疾患、というよりも症候群といったほうがいいかもしれませんが、これらの疾患には共通する特徴があります。外から見て傷もなく、怪我もなく、レントゲンで骨を写してもなんら異変が見られない、ということです。骨が折れておらず、皮膚にも筋肉にも傷ひとつ見当たらないのに、なぜか痛みがあります。なぜか、炎症を起こしています。痛みは体の異変を知らせる信号であることは間違いありません。ではなぜ目に見えないのでしょうか。
 

前述の4つの疾患のうち、腰痛や肩こりなどの慢性痛において、よく使われる表現があります。「こる」「張る」「重い」「だるい」などという表現です。これはどういう意味なのでしょう。
肩が「こった」部分を触ると硬くなっています。腰が「重い」部分をさわってみると、やはり硬くなっています。この硬くなっている部分の「感覚受容器」、つまり体にくわわる刺激を感じ取る器官が、何らかの信号を、神経を通じて脳に送っていて、脳がこの「信号」が体にどのような影響を与えるかということを判断して、「こり」「張り」「重い」「だるい」などと表現される状態を感じさせているのです。

具体的には、「こり」を感じているのは「筋紡錘」や「腱紡錘」と呼ばれる感覚受容器で、これらは筋肉の「張力」、つまり筋肉の張り具合を感じるための受容器で、「筋腹」にあるものを筋紡錘、「腱」にあるものを腱紡錘といいます。

 

「こり」「張り」「重い」「だるい」という表現は、すべて筋肉が収縮している状況を示しており、その収縮を筋・腱紡錘が感知して脳に送ることによって感覚が発生します。

筋肉の収縮なら、自分で力を抜けばいいではないか、と思われるでしょうが、筋肉には、自分の意思で弛緩する(ゆるめる)ことのできない、不随意収縮(スパズム)と呼ばれる現象を起こすことがあり、だからこそ、自分では力を入れていないのに、感覚受容器が「力がはいっている」という信号を脳に送ってしまうために、妙な「違和感」を感じてしまい、その違和感こそが「重さ」や「だるさ」の正体のひとつなのです。

 

この「筋スパズム」という現象は、筋肉が「収縮しているだけ」のことなので、厳密には「怪我」や「病気」とはいえません。しかし筋スパズムがあまりにも大きくなってしまったり、硬くなってしまったり、広がってしまったりすると、様々な症状を体に引き起こすことがあります。

筋スパズムは、それ単体では「こり」や「だるさ」を引き起こすだけですが、筋スパズムの存在している部分に強い衝撃が加わったり、疲労がたまったりすると、「炎症」を起こします。

この炎症は程度によって非常に強い「痛み」を起こすことがあり、この「筋スパズム」にプラスして「炎症」が発生している状態が、つまりは、前述の4つの疾患なのです。

前述の4つの疾患が痛みによって知らせようとしているのは「筋スパズム」の存在であり、「見えない異変」が目に見えないのは、皮膚に覆われていて、レントゲンにも写らない「筋肉の収縮」が原因だから、なのです。 

この「筋スパズム」という現象を通して考えてみると、筋肉という器官について、我々はよく知っているようで、実は何もわかっていないのだということを痛感させられます。

本HPでは、私が独自に調べた筋肉と筋スパズムの性質についてご紹介していきます。まだまだわからないことだらけなので、内容的には甚だ未完成ではありますが、筋スパズムを多くの人により深く理解していただき、その全容の解明に協力していただけたらと思い、ここに掲載いたします。

1 筋肉の性質


筋肉という器官は生命の源泉といえるでしょう。筋肉が収縮することによって体温を生み出し、運動を行い、心臓が鼓動し、内臓が働きます。筋肉の細胞は柔軟性に富み、血流が豊富で、多少傷ついたくらいであればすぐに治ってしまいます。激しい運動によって発生する筋肉痛は、筋肉の繊維が傷つくことによって起こりますが、この痛みは2~3日できれいさっぱり消えてしまい、そのあとには一回り強くなった筋肉に生まれ変わります。

このように非常に重要な役割を担い、広範囲に高い能力を誇る筋肉という器官は、しかしながら一つだけ、困った性質を持っています。その性質とは、筋肉は怪我をしたり、激しく疲労したりすると、「筋スパズム」という、非常に特殊なこわばり方をすることがあるのです。

2 特殊なこわばり



通常であれば筋肉は力を入れれば収縮し、力を抜くと弛緩します。ところが怪我をしたり、疲労が溜まったりすると、非常に特殊なこわばり方をすることがあります。どのように特殊なのかというと、力を抜いても筋肉が弛緩できなくなるのです。
 
力を抜いても弛緩できないということは、その部分の筋肉が常に収縮したまま硬くなってしまい、リラックスしたくてもできない状態だということになります。

通常、疲労してこわばった筋肉は休息をすることで回復します。普通のこわばりならば、休めば回復するのです。ところが特殊なこわばりは、休息しても、あたためても、伸ばしても、さすっても弛緩することができません。つまりほとんど回復することができないのです。

この筋スパズムが本稿の序文における「痛み以外にさしたる異変のない疾患」の原因になっています。腰痛や肩こり、スポーツ障害や成長痛、治りきらない怪我における「痛みの役割」は、この筋スパズムという異変が存在しているぞ、ということを知らせることなのです。
 

3 何故筋スパズムが発生するのか



なぜ筋スパズムが発生するのか、実はよくわかっていません。医学的に、まったく無視されている分野なのです。

筋スパズムは確かに医学的に認識されては、います。認識されてはいるものの、理解されているとはいいがたく、筋スパズムを解消するためには「リハビリをすればいい」という程度の考え方をされています。



筋スパズムは休息しても、伸ばしても回復しないということは既述の通りです。リハビリテーションというものは、自分自身の力で運動して、関節の運動域を広げることを目的としています。つまり自分の力で自分の筋肉を伸ばして改善させろ、という理屈の技術です。しかし、普通に筋肉がこわばっているだけであればこの方法で改善することができますが、自分自身の力で筋肉を伸ばしても弛緩できるようにならないからこそ、「筋スパズム」なのであって、リハビリで改善することはできないのです。

しかし医学的には「リハビリをすればいい」という認識をされており、その基本的な部分が間違っているために有効な治療がほとんど行われていないのが現状です。

筋スパズムが発生する様子をフローチャートにしてみました。

筋スパズムは炎症を起こしやすく、自然治癒することもなく、ある程度以上になった 筋スパズムは、これを専門に解消する技術によってのみ治療が可能になります。当院では この専門技術の開発を進めているところです。

4 筋スパズムとは


① 筋スパズムによる痛みの程度

筋スパズムは、それ単体で痛みを発生することはありません。筋スパズムに対して疲労がたまったり、強い外力がかかったときに炎症を起こし、その炎症が痛みを発生させるのです。筋スパズム自体は痛みではなく、「違和感」や「こり」などとして認識されているようです。また、筋スパズムがあまりに大きくなってしまった場合、慢性的な炎症を発生するようになるようです。

この筋スパズムによる炎症の強さは、程度によって大きな違いがあり、ちょっとした軽い痛みから骨折並みの激しい痛みまで、様々な痛み方があります。痛みの強さは炎症の強さによって決まりますので、痛みが強ければ炎症がそれだけ強いのだという風に理解していただければいいと思います。

激しい痛みの対処の仕方は、その痛みを「怪我」として考えていただければおのずと見えてきます。つまり「安静」「冷却」「固定」という、いわゆる捻挫や骨折といった外傷の処置をすれば、痛みはやがてひいていきます。固定ができなければひたすら安静にすることです。そして激しい痛みが引いた後に、筋スパズムに対する治療をすれば、そのような激しい痛みが発生することは、なくなるようになるはずです。

筋スパズムを治療する際には、「痛みの強さ」を判断の基準にはしません。痛みの強さは、現在の炎症の強さを表しているに過ぎず、筋スパズムの状態を表しているわけではありません。このため、痛みの激しいときには、「怪我」としての治療をし、激しい炎症による痛みが引いてから、筋スパズムを解消するための専門技術での治療を行います。

痛みの程度は炎症の強さによって決まります。痛みが強いからといって、筋スパズムが必ずしも大きかったり、強かったりするとは限りません。

 

② 筋スパズムと自然治癒力
 

自然治癒力という力は非常に強く、あの硬い骨が折れた部分をくっつけてしまいますし、皮膚が破れても縫っておけばくっつきます。病原体が入り込んで繁殖しても様々な細胞で戦ってくれますし、毒物が入り込んでも少量ならば排泄してくれます。
これほどまでに高い能力で体を守ってくれる自然治癒力ですが、自然治癒力が働いてくれる相手というのは、次の3つに限られているのです。


  A 組織の損傷
  B 病原体の侵入
  C 異物、毒物

 

筋スパズムに対して自然治癒力は働きません。
さて、炎症の話に戻りますが、炎症はその原因となっている現象が消失することで引いていきます。怪我の場合は組織の損傷の修復、感染症の場合は病原体の死滅、消滅、毒物の場合は排泄、筋スパズムであれば、そのこわばりにかかる負荷や疲労の消失です。
これらの現象、つまり怪我、感染症、毒物の侵入、筋スパズムの中で、炎症の減退とともに消失しない現象があります。怪我は組織が修復されれば治癒しますし、感染症も治癒します。毒物も排泄されれば治癒ですが、筋スパズムは、そこにそのまま残り続けるのです。

 

自然治癒力が働かず、リハビリテーションでも解消されない筋スパズム。これを解消するためにはどうしたらいいのでしょうか。それを知るためには、まず筋スパズムがどのような性質を持っているのかを知らなければなりません。

5 筋スパズムの性質

 

筋スパズムの性質は、医学的にはまったく明らかにされていませんので、本HPでは私が独自に観察し、仮説を立て、それを証明する、という手順を経て明らかになった事実をご紹介します。しかしなにぶんたった一人でやっていることですので、どこかに間違いがないとは言い切れません。どうぞ、ご了承ください。



① 筋スパズムはさわると硬い

筋スパズムを起こしている筋肉は、筋スパズムのない部分と比べると明らかに硬くなっています。いわゆる「こり」や「張り」などと呼ばれるものは、ほぼ筋スパズムで間違いありません。しかし筋スパズムという現象は「こり」や「張り」だけではなく、体のどの部分にでも発生しうる可能性があり、実際にこりや張りと認識されることのない野球肩やテニス肘などといったスポーツ傷害や、オスグットやケーラー病といった成長痛と呼ばれる疾患をも引き起こしています。

肩こりや腰の張りといった部分をさわってみると、明らかにわかりやすい形で硬くなっているのがわかります。しかしスポーツ傷害や成長痛などでは、ちょっとさわったくらいでは硬くなっている部分が認識できません(わかることもありますが、わからないことも多いのです)。

肩や腰のように筋肉がたくさんある部分の筋スパズムは比較的わかりやすく、二の腕や肘、膝のように、筋肉の比較的少ない部分の筋スパズムはわかりにくいといった性質があるためだと思われます。同じ肘でも、外側が痛くなるテニス肘は筋スパズムの存在が比較的わかりやすく、内側が痛くなる野球肘の筋スパズムはわかりにくいのです。

さらに骨に近い部分の筋肉では骨の形にそって筋スパズムが形成されることが多く、ちょっとさわったくらいでは、筋スパズムのあるなしがまったく区別できません。そういう時は患者さんの訴えをよく聞き、筋スパズムと思しき部分を治療すれば、やがて感触が変わってきますので、そうなれば筋スパズムが存在している証拠として考えていいと思います。

② 筋スパズムは痛みを起こす
 

筋スパズムは「痛み以外にさしたる異変のない疾患」のそもそもの原因になります。
腰痛や肩こり、スポーツ障害、成長痛、治りきらない怪我などの痛みの疾患全般のことです。

人体の防御反応の一環として発生した筋肉の収縮が誤作動を起こした結果、筋スパズムが発生します。筋スパズムは、こわばりそのものの大きさと、そこにかかる負荷の大きさ、そして蓄積された疲労の程度によって炎症を起こし、その炎症の程度によって痛みの強さが決まります。

痛み方はちょっとしたツッパリから骨折並みの非常に強い痛みまで様々で、どのような痛みが起こっても不思議ではありません。

③ 筋スパズムはコリや張りやツッパリを起こす
 

筋スパズムは、単に筋肉が収縮している状態です。自分の力で緩むことができないとはいえ、炎症さえ起こらなければ痛みはありません。

ただし、痛みはなくても違和感はあり、筋肉が収縮しているという実感はあるわけです。その実感を感じ取るのは体の深部にある感覚器で、この器官は筋肉や腱の収縮の程度を感じ取っています。つまり自分の担当している筋肉がどれくらい収縮しているか常に感じているために、常に収縮している部分の感覚器は、常に「力が入っているよ」という信号を脳に送り続けているわけです。

自分では力を入れている意識はないはずなのに、脳は「力が入っているよ」という信号を受け取っているわけですから、それは違和感があるでしょう。この違和感のある部分にもし大きな負荷がかかったり、疲労が蓄積されたりすると、この部分が炎症を起こし、痛みが発生します。筋肉のコリや張りやツッパリは、炎症のない筋スパズムであり、痛みの疾患と紙一重の状態ですので、なるべく痛みにならないうちに、特殊なこわばりを解消しなければなりません。

④ 筋スパズムは運動制限を起こす 


筋スパズムは、自分の意思で緩むことができない、つまり伸びることができない状態であるために、関係する関節が最大限伸ばせない、あるいは曲げられない、という事態が 発生します。最大限伸ばせない、あるいは曲げられない、ということは関節の運動域が制限されているということです。

制限される角度や範囲は筋スパズムの大きさによって決まります。また炎症があればその炎症による痛みも運動域を制限しますが、炎症による制限は炎症が収まることによってなくなります。純粋に筋スパズムのみによる運動制限は、炎症のない状態で調べなければわかりませんので、痛みが強い場合にはまずは安静にして炎症を減退させなくてはなりません。痛みがあるにしろないにしろ、運動制限があるならば筋スパズムは存在しますので、とりあえずは安静にして、できるだけすみやかに筋スパズムを解消させなければなりません。

⑤ 筋スパズムはしびれを起こす 
 

筋スパズムは腰から足にかけて、または肩から腕にかけて、もしくはその他の部分にしびれを起こすことがあります。

 

しびれを起こすメカニズムについてはよくわかってはいませんが、筋スパズムによる筋肉の収縮が、何らかの感覚器に感知された結果、しびれという感覚になって脳に伝わっているものと思われます。

 

このしびれという症状は、痛みと同じく、「痛み以外にさしたる異変のない疾患」の主要な訴えとなっていますが、どのようなメカニズムで起きているかわからないために、対症療法的な処置が存在しません。痛みならば炎症が直接の原因ですので安静や固定が対症療法として有効なのですが、しびれには対症療法が存在せず、しびれの原因となっている 筋スパズムを解消する以外に、現在のところ治療方法がありません。

⑥ 筋スパズムは皮膚感覚の鈍磨を起こす 
 

筋スパズムは時に皮膚感覚の鈍磨、つまり触覚が鈍くなるという症状を起こします。
患者さん自身が気づくのは、手足の先の部分に症状が出る場合が多いですが、肩こりのひどい部分や慢性的な腰痛のある部分のほうがむしろ多く、感覚の鈍い部分の面積も広いことが多くあります。

この症状もメカニズムがわかっておらず、対症療法は存在しません。この症状を治療するためには筋スパズムそのものを解消する以外に方法はありません。

⑦ 筋スパズムは筋肉の痙攣を起こす 
 

筋肉の痙攣というと「こむら返り」が代表的なものですが、手のひらや足の裏にもよく起こります。痙攣とは筋肉が急激に、不随意に、強力に収縮してしまっている状態で、これが起こるということは、そもそも痙攣を起こす筋肉に筋スパズムがあるのだと思われます。
特に何度も繰り返して痙攣を起こす場所には必ず筋スパズムがあり、これを解消することで痙攣を起こすこともなくなります。

⑧ 筋スパズムは浮腫(むくみ)を起こす
 

筋スパズムは炎症を起こしやすいものです。炎症を起こしている部分には白血球やリンパ球など、免疫機能を持った体液が集まってきます。また炎症を起こしている部分には痛みがあり、自然と動きを制限しています。動きの制限が多いほど、またその期間が長いほど、集まってきた体液が貯留しやすくなり、この普段より多目の体液が浮腫となるのです。

注意しなければならないのは、動きが悪いから浮腫を起こすのだという理由で痛みを我慢して動かしてしまうと、炎症がさらに強くなり、痛みがさらに強くなる可能性が高いということです。痛みを原因とする浮腫の原因は炎症であり、炎症の原因は筋スパズムですので、筋スパズムを解消すれば浮腫も解消されます。

⑨ 筋スパズムは水腫(関節に水がたまる)を起こす
 

関節の付近で筋スパズムが発生すると、関節の内部に水がたまることがあります。浮腫と違うのは、浮腫が個々の細胞の内部に、それぞれ普段より少しだけ多目の水分が入り込んでその付近一帯がむくむのに対し、水腫の場合水がたまるのは、関節包という関節を覆っている膜の内部に文字通り水分そのものがどっと入り込んでいるということです。
水腫を起こしている部分に触れると、たっぷんたっぷんという水の入った袋のような感触があり、中に入っている水分は、浮腫の場合と同じく炎症によって集まってきた免疫系の体液です。水腫の場合は浮腫よりも炎症の強いことが多く、痛みが強いようです。対症療法としては、強い炎症への対処法である安静と固定が有効です。根本的な治療は筋スパズムを解消する以外にはありません。 

⑩ 筋スパズムは骨のずれを起こす
 

筋スパズムは無意識のうちに筋肉が収縮している状態ですので、その部分に張力が働きます。
ということは、たとえば背中のどこかの筋肉に筋スパズムが発生すると、自分では力を抜いたつもりでも、筋肉の付着部にある骨を引っ張ってしまっているわけです。
その筋スパズムに炎症が起こると、単なる張力に加えて痛みがプラスされ、痛みをかばうために、さらに今度は意識して体を曲げてしまいます。

 

この状態が長く続くと、筋スパズムが石のように硬くなってしまうことがあります。硬くなった筋スパズムはその分張力が強くなりますので、強く骨を引っ張ります。特定の背骨の付近でこのような状況が発生すると、骨がずれて見えるようになります。

このように骨がずれるのは筋スパズムが原因となっていますので、骨がずれたように見える部分を治すためには、筋スパズムに対する治療が不可欠になります。

⑪ 筋スパズムは意外な疾患の原因になる
 

筋スパズムは腰痛や肩こり、野球肩やオスグット病などの典型的な疾患のほかにも様々な痛みの原因となっていて、中には筋スパズムとはあまり関係のないように考えられている疾患もあります。

たとえば「バネ指」。

正しくは「弾発指」とか「狭窄性腱鞘炎」とかいう疾患名ですが、一般にはバネ指のほうが通りがいいようです。この疾患は指を動かしている腱(筋肉の一部)が、何らかの原因で腫れてしまい、腱を覆っている腱鞘、つまりさやの出口付近で、腫れた部分が腱鞘へ出入りするときに、指がバネ仕掛けになったようにがっくん、がっくんという、痛みを伴う動作が発生するものです。

この疾患の原因は筋スパズムです。疲労か怪我か、どちらかで特殊なこわばりが指の腱に発生し、筋スパズムが疲労のために炎症を起こし、炎症を起こした部分が腫れ、その腫れが腱鞘に引っかかっているのです。

現在のところステロイド注射や手術による治療が主流のようですが、筋スパズムを解消するだけの技術があれば、注射や手術をしなくても治療は可能です。

そして一般的な腱鞘炎も、筋スパズムが原因で発生します。バネ指と違うのは、腱鞘の出口付近が腫れるわけではないので、バネ仕掛けのような動作が起こらないことだけでしょうか。筋スパズムを解消すれば改善します。

このほかにも「これは筋肉が原因ではないだろう」と思われている疾患が、実は筋スパズムが原因だったという例はたくさんありますが、そうぽんぽんと思い浮かぶものでもありませんので、はしょります。

ともかくも筋肉という器官は、われわれの生活の中で驚くほど多くの役に立ってくれています。体と手足を動かし、呼吸をし、内蔵を働かせ、心臓を動かし、熱を生む。そして頑丈にできていて、回復力もあり、鍛えればすぐに強くなる。実にタフな組織です。

しかしながら筋肉は筋スパズムを起こすという性質をもっており、この一点において大きな誤解を人々に与えています。

 

いくら高い能力を誇る筋肉でも、万能ではありませんし、ましてや不死身ではありません。急性および慢性疼痛性疾患に苦しむ患者さんのお役に立つためには、筋肉について、筋スパズムについて、我々はその性質を深く、深く知らなければなりません。
しかしながら筋スパズムに関する研究はまったくといっていいほど進んでいません。というか、いまだ始まってすらいません。

本HPでは当院が独自に調べた筋スパズムの性質をご紹介しています。多分に仮説が混じっていますので、多少の勘違いはあるかもしれませんが、すべて当院が日々の診療の中で調べ、確かめ、取得した情報です。これを公開することで、少しでも筋スパズムに対する理解が広まってもらえれば幸いです。 

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